間脳下垂体腫瘍には、
下垂体腺腫、ラトケ嚢胞、頭蓋咽頭腫、胚細胞腫、星細胞腫(グリオーマ)、髄膜腫などの腫瘍が含まれます。
下垂体腺腫は通常、下垂体前葉から発生する良性腫瘍で、ホルモンを過剰に分泌するホルモン産生下垂体腺腫とホルモン基礎値が正常な非機能性下垂体腺腫の2種類に分けられます。
特定のホルモンを過剰分泌しないタイプの腫瘍で、視野障害や頭痛を主訴に患者さんが来院されます。通常、腫瘍がかなり大きくなってから発見されることが多く、下垂体腺腫の25~30%を占めると言われます。手術による治療が第一選択となり、鼻の穴から手術を行う「経鼻的経蝶形骨洞手術」と呼ばれるもので、手術顕微鏡及び内視鏡を使って腫瘍を摘出します。腫瘍の大きさや進展状況により、開頭手術を組み合わせる事もあります。また、稀に腫瘍内に出血(下垂体卒中と呼ばれる)を起こし、激しい頭痛や急激な視力視野障害をきたし、緊急手術となることもあり、注意が必要です。
プロラクチンというホルモンを過剰分泌する腫瘍で、生理が止まったり、乳汁が出たりする症状で来院されます。若い女性に多く、女性不妊症の代表的な原因疾患です。男性にも発生することがありますが、見過ごされる事が多く、腫瘍が大きくなって視力や視野障害をきたして初めて発見されることもあります。治療は、手術療法と内服治療があり、小さな腫瘍であれば全摘出し、根治を目指します。内服薬でもプロラクチン値を下げ、妊娠に成功したり、腫瘍を小さくすることが可能ですので(根治することはできません)、腫瘍の状態を見ながら患者さんと相談し、内分泌専門医や婦人科の医師と対応していきます。
■症例写真
29才の女性。不妊症と乳汁漏出を主訴に来院。経鼻的に摘出術を行い、現在3人の子供を出産。左は手術前のMRI写真(赤丸内に腫瘍)で、右は摘出術後。
手術前
手術後
思春期前にこの疾患にかかると高身長となり、いわゆる巨人症になります。成長期以降にも成長ホルモンが過剰分泌すると手足が大きくなり、指輪や靴が合わなくなる、額やアゴ、唇や舌が分厚くなり顔つきが変わる、声が低くなるなどの末端肥大症と呼ばれる症状で発症します。その昔有名なプロレスラーやバスケットボール選手、最近では韓国のK1選手などが治療を受けました。さらに肉体的な変化だけでなく、高血圧症や糖尿病、癌に罹患しやすくなることが知られています。治療は、「経鼻的経蝶形骨洞手術」を第一選択とします。成長ホルモン値の下降と共に速やかに症状が改善していきます。もし、重篤な心臓病や合併症があり、全身麻酔による手術ができない場合は、内科的治療やガンマナイフなどの放射線治療を行います。
■症例写真
60才女性の末端肥大症の写真(手術前)
末端肥大症の特徴的な顔貌と巨大舌 手足の増大
末端肥大症の写真(手術後3週間)
顔はすっきりし、以前の指輪や靴が入るようになった。
手術後、スリムになった手足
この腫瘍は一般的にクッシング病と呼ばれています。女性に多く、顔が丸くなり(満月様顔貌)、手足が細い肥満体型、多毛やニキビ、赤ら顔、皮膚に赤紫色の線状痕跡(皮膚線条)などが特徴的です。なかなかお薬が効かない高血圧や糖尿病、無月経で発症することもあり、診断が難しい腫瘍の一つです。MRIで腫瘍が確認できて、海綿静脈洞や下錐体静脈洞という下垂体に近い静脈から副腎皮質刺激ホルモンのサンプリングが陽性であれば手術を行います。
■症例写真
ACTH産生下垂体腺腫(クッシング病)の特徴的顔貌とMRI
54才の女性。肥満と難治性の高血圧を主訴に来院。下垂体の右側に小さな腫瘍を認める(矢印)。
クッシング病に特徴的な顔貌
ラトケ嚢胞は、脳ドックの普及に伴い正常下垂体でも10~20%前後に見つかることがあります。無症状の場合はそのまま経過観察することが多いのですが、頭痛、視力視野障害、下垂体機能障害などの症状がある場合は、経鼻的手術でこの嚢胞を開放することで速やかに症状が改善します。
■症例写真 ラトケ嚢胞(赤丸内)と上方に圧迫されて薄くなった視神経(矢印)を認める。
通常、子供に発生することが多いのですが、大人でも珍しくありません。症状は、水頭症をきたして頭痛を訴えたり、視野狭窄をきたして病院を受診される患者さんが多くいらっしゃいます。特徴的なのはホルモンの異常から起こる身体発育不全です。つまり身長の伸びが悪く、色白であご髭や腋毛、恥毛などが薄くなったり、基礎代謝が落ちて体温低下や血圧低下、さらに活発さが無くなり寝ている時間が長くなります。これも良性の腫瘍の一つですが、手術は最も難しい部類に入ります。腫瘍が正常脳と癒着しており、全摘出が難しいのと、手術後にホルモン機能低下や尿崩症、電解質異常などの合併症が出やすいからです。初回手術での結果が予後に一番影響するため、腫瘍の大きさ、場所及び進展の状況を十分に検討して適切な手術方法が選択されます。また、一つのアプローチのみならず、いくつかのアプローチを組み合わせたり、術野の展開を工夫しながら、合併症を出さない様に摘出を目指しています。しかしながら腫瘍組織が重要な脳組織や視神経、太い血管などに癒着している場合は、重篤な合併症を避けるために無理をせずに敢えて一部を残すことがあります。その場合は、ガンマナイフなどの放射線治療を行います。
左:頭蓋咽頭腫に対する様々なアプローチ法
右:視神経、下垂体柄、視床下部、内頚動脈穿通枝などに癒着している腫瘍組織
■症例写真
症例:頭痛と生理不順を主訴に来院された33才の女性。
右の前頭側頭開頭にて全摘出を行った。手術後、一過性に尿崩症が出現したが、すぐに改善し、合併症無く退院。ホルモン補充療法は必要としていない。
手術前
手術後