顔面痙攣、三叉神経痛、舌咽神経痛
- ■ 顔面痙攣について
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顔面痙攣は、どちらか一方の目の周囲がピクピクと勝手に動き出し、次第に顔全体に広がってくる病気です。軽度のうちは、眼精疲労などと診断されている事が多いようです。次第に目が開けづらくなったり、口元が引きつれるようになってから、「顔面痙攣」と診断され、脳神経外科に紹介されてくるケースがほとんどです。通常、緊張したり、人前に出たり、疲労やストレスなどで症状が増強し、自分の力では止めることはできません。一時的に軽快することはあっても、消失することはなく、長期間放っておくと顔面神経麻痺を伴うことがあります。
原因は、耳の奥の脳幹部において顔面神経の出口が脳の血管によって圧迫されることによって起こります。その他に、動脈瘤や脳腫瘍による圧迫でも生じることがありますので、必ずMRIで確認しておく必要があります。
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赤い矢印の先の白いのが 顔面神経の根元を圧迫している血管 |
- ■ 三叉神経痛について
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三叉神経痛は、突発的に電激痛と呼ばれる耐えがたい激痛が顔面に起こる病気です。比較的高齢者に多く、歯磨きや食事、洗顔、ひげ剃り、会話などで誘発され、長期にわたると満足に食べられなくなり、体力だけでなく精神的にも疲弊してくることがあります。
原因は顔面痙攣と同様、三叉神経が脳の血管(通常は動脈ですが、時に静脈でも起こる)によって圧迫されることによって起こり、その他にも脳腫瘍や動脈瘤、動静脈奇形、硬膜動静脈瘻などによる圧迫も原因になります。
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三叉神経(TN)が血管(SCA)によって 赤い矢印のところで裏側から圧迫されている。 |
- ■ 舌咽神経痛について
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舌咽神経痛は、三叉神経痛に比べると症例数は少ないのですが、これも三叉神経痛と同様、耐えがたい電撃痛が起こる病気です。通常、舌の後側から喉の奥に痛みが走ることが多く、時に耳の方まで痛みが放散することがあります。最初は冷たい水などで誘発されることが多いのですが、次第に食事や会話などでも頻発するようになり、就寝中でも突然激痛が起こり、睡眠障害を引き起こします。
原因はいろいろ報告されていますが、筆者の経験では全例、動脈が舌咽神経を圧迫しており、外科的に圧迫を解除すると症状が消失しています。
- ■ 治療法
1.薬物治療
顔面痙攣にはリボトリールやガバペンといった抗けいれん剤を用いることが多く、三叉神経痛や舌咽神経痛ではテグレトールが非常に効果的です。症状が軽度のうちは良く効きますが、次第に効果が薄れていき、薬の量が増えていくので、しばしば眠気やふらつきなどの副作用が強く出ることがあります。
2.ボトックス注射
ボトックスは、美容形成外科領域における顔のシワを伸ばす治療薬として有名ですが、顔面痙攣を軽減させる治療としても利用されています。2000年より顔面痙攣に対しての保険治療が認められており、成分であるボツリヌス毒素が目の周囲の筋肉の収縮を弱めることによって痙攣を抑えます。ただし、根本治療では無いため、効果は永続的なものではありません。通常は3ヶ月程度で効果が薄れていき、繰り返し投与しても次第に効果が無くなってくることがほとんどです。
3.神経ブロック
神経ブロックとは、三叉神経痛の患者さんに対して、注射で神経をブロックする(麻痺させる)治療法で、主にペインクリニック科で行われています。これもボトックス同様、効果は永続的なものではないため、繰り返し行う必要があります。
4.ガンマナイフ
ガンマナイフは、放射線治療の一つで、薬物治療や神経ブロックが効果的で無く、高齢者や全身麻酔による手術ができない三叉神経痛の患者さんに行われています。ただし、まだ保険適応が認められておりませんので、全額自費負担となります。
5.外科的治療
血管によって神経が圧迫されている場合は、神経血管減圧術を行います。これは全身麻酔で、耳の後ろに小さな開頭を行い、顕微鏡を用いて圧迫している血管を神経から離す手術です。通常は2~3時間前後で手術が終了します。
顔面痙攣は術直後より90%の患者さんの痙攣が完全消失しますが、圧迫を解除したにも関わらず、数ヶ月かけて徐々に痙攣がおさまってくる患者さんもいます。また、太い椎骨動脈や大きな動脈瘤が食い込む様にして圧迫している場合は、血管の移動が困難なために除圧が不完全になり、痙攣が完全に消失しない場合があります。
三叉神経痛は、術直後より劇的に痛みが消失することが多く、稀に一過性に痛みが強くなってから次第に軽減していく患者さんもいます。
起こりうる合併症としては、耳の聞こえが悪くなったり、顔面麻痺、嚥下困難、嗄声、髄液漏、創部感染症などがあげられますが、最近ではそのような事はほとんど起きていません。通常は5~9日間の入院で済みます。
- 神経血管減圧術の皮膚切開線と開頭範囲(左側の場合)
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耳の後ろの赤い楕円形は三叉神経痛、黄色い半円形は顔面痙攣や舌咽神経痛に対する開頭範囲。点線はそれぞれの皮膚切開線で、周囲の部分剃毛が必要です(丸坊主になる必要はありません)。
- 顔面痙攣に対する神経血管減圧術(左)
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左は減圧する前で、青い矢印のところで血管が顔面神経(7)の根元を圧迫している。右は、テフロン(T)を用いて血管を上方に移動させ、圧迫を解除したところ。
T:テフロン
7:顔面神経 8:聴神経 9:舌咽神経 10:迷走神経 11:副神経 12:舌下神経
- 症例:右の顔面のピクツキ、ひきつれ、
開眼不能を主訴に来院した60代の女性
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血管(青矢印)が聴神経(VIII)と顔面神経(VII)の間を貫通して走行しており、小さい黒矢印の位置で顔面神経を圧迫していた。血管を上方に持ち上げてテフロンで固定。術直後より顔面痙攣は消失。
- 症例:脳腫瘍によって三叉神経痛をきたした40代の男性
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左側は白く光った腫瘍が露出されたところ。中央は腫瘍に埋もれていた聴神経が現れたところ。右は腫瘍を全摘して三叉神経、聴神経、顔面神経、外転神経、下位脳神経に対する圧迫が解除されたところ。術直後より痛みは消失。
- 症例:硬膜動静脈瘻(赤い矢印)によって
三叉神経痛をきたした40代の女性
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静脈瘤と流入血管にクリップをかけ、三叉神経を圧迫していた静脈瘤を凝固し切除した。術直後より痛みは消失。
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症例:舌咽神経痛
左舌の奥の激痛を訴え、他院で手術を受けたが痛みは消えず、その後、抜歯や星状神経節ブロックを受けたが効果は無く、当科外来受診されてきた50代の男性。
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舌咽神経(9)が後下小脳動脈(PICA)の起始部で圧迫されていたため、これを解除。術直後より痛みは消失。
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